おつかれさまです。そろそろ花粉に苦しみ始めた税理士の磯谷です。
今回は、法人の経営でたびたび出てくる「役員借入金」「役員貸付金」について整理したいと思います。
この2つ、似ているようで全然違いますし、それぞれが持つ特徴や効果について理解していないと後々面倒なことになる可能性があります。
そういや帳簿に残高がたくさんあるなあ。。という方は、理解の整理にお役立てくださいませ。
役員借入金とは
まずはこれ、「役員借入金」です。
これは勘定科目でいうと、貸借対照表の「負債の部」に表示される項目です。
「社長借入金」という表示をすることもあります。
どんなときに使うのか?仕訳例
役員借入金は、結論的にはこんなときに使ったりします。
具体例
①会社の事務所家賃を、社長の個人口座から大家に振り込んだ
②得意先との接待(飲食など)の支払いを、社長が個人の財布から現金で払った
③Amazonで注文した事務所用の空気清浄機を、社長個人のクレジットカードで決済した(花粉に耐えられないから。。)
こんなときに、発生します。
仕訳としては、こんな感じとなります。
①(借)地代家賃 ×× (貸)役員借入金
②(借)交際費 ×× (貸)役員借入金
③(借)消耗品費 ×× (貸)役員借入金
借方には用途別に経費を発生させ、貸方には、全て「役員借入金」で処理しています。
要するに、社長(=役員)が会社の支払いを一旦自腹で立て替えたという意味となります。
役員借入金の持つ意味
このようにして発生する役員借入金ですが、以下の2面性があります。
①借入金としての性質
こちらは、読んで字の如し。
立て替えてもらったなら、いずれ返済しないといけないですから、借入金としての性質があります。
会社の資金繰り状況をみて、社長(役員)に返済することになります。
ちなみに、利息はつけなくてもOKです。
社長(役員)は、利息を目的で立て替えたわけではないので、特に個人と法人間で利息の精算は必ずしも不要という考え方です。
②資本金としての性質
こちらは、ひとり社長(株主=社長)の会社を想定すると分かり易いです。
つまり、社長(個人)と会社(法人)は厳密には別人格ですが、実質的には表裏一体のようなもので「お金の出しどころは同じ」というイメージです。
また、法人にお金があれば法人で払いますが、法人の運転資金が無いときは社長の私財から支払わざるを得ません。
そういう時に役員借入金が発生するわけですが、会社からすれば、どちらも会社の元手となる資本金だよね、というイメージです。
なので、資本金としての性質があるのです。
これは、銀行融資を受けるときに意味があります。
「役員借入金」がある場合は、資本金に準じたものとして審査上取り扱います。
有利子負債から除かれる、ということですね。
なので、役員借入金が多額にあっても、それ自体が必ずしも融資審査上不利に働くということではありません。
ただし、決算書上は、通常の銀行借入とは区別して表示しておきましょう。
「短期借入金」「長期借入金」などの勘定科目で表示していると、ちゃんと除かれるか微妙だからです。
ちゃんと、「役員借入金」として表示しましょう。
また、短期で返済しないのであれば、固定負債の区分に表示しておきましょう。
流動比率などの指標が有利になります。
役員借入金の注意点
上記のとおり、借入金や資本金に準じた性質がある役員借入金ですが、注意点があります。
それは「相続のときに相続財産となってしまう」ことです。
どういうことかというと、会社からみれば借入金なら、出し手の役員(社長)からみれば、それは会社に対する「貸付金」だからです。
貸付金は、その個人が亡くなった時に相続財産(遺産)となって相続税の課税対象に含まれますので、相続税が発生する要因となります。
会社的には利息もかからないので返済してもしなくてもいいか、と放置しがちな役員借入金ですが、相続の話にまで影響を及ぼすポテンシャルを持っているものですので、注意が必要です。
法人の資金に余力があれば、早めに精算しておいた方が、トータル的に良いと思います。
役員貸付金とは
はい、次は「役員貸付金」です。
これは貸借対照表の資産の部に表示されます。
どんなときに使うのか?仕訳例
これも読んで字の如しで、役員借入金の逆です。
こんなときに発生します。
例えば、こんなとき
①社長のプライベートの支払いに充てるために法人口座から引き出した
②売上金が得意先都合(または自社都合)で社長の個人口座に入金された
仕訳としては、こんな感じでしょうか
①(借)役員貸付金 ×× (貸)普通預金 ××
②(借)役員貸付金 ×× (貸)売上高 ××
借方に、役員貸付金が発生します。こんなふうに、増えていきます。
特に①が発生する原因として多いです。
これは往々にして、会社経営とプライベートについて、公私混同している会社の場合に起こります。
(後ほど、例を挙げます)
ちなみに②は、個人から法人成りしたての頃に出てきたりするケースがありますが、こちらは個人口座に入ってきたらすぐに法人口座に入れてあげれば、比較的簡単に解消します。
問題は、やはり①です。
役員貸付金の意味と注意点
こちらも読んで字の如し。
役員に対する会社からの貸付金ということです。
役員借入金と逆の話か。。なら特に大きな問題は無いのか?
そんな問いに対しては、とりあえず「全然ちがう」という回答になります。
①利息計上が必須
まず、貸付金に対する利息計上が必須となります。
「個人→会社」への貸付(=役員借入金)は、利息自体を目的とした行為ではないため利息計上しなくても大丈夫、と言いましたが
「会社→個人」の場合はダメです。利息を取らないと、法人としてお金を出す理由が立たないからです。
面白くない表現をすると、「経済的合理性が無い」ということになります。
利息を計上しないと、税務調査では認定利息として利息の計上漏れ(=収入の漏れ)を指摘されるか、ひどい場合は以下に述べる「給与課税」の餌食になる可能性が出てきます。
②給与課税される可能性がある(危険)
役員貸付金というのは、「役員(社長)個人に対して法人のお金を渡すこと」です。
これはつまるところ、役員報酬と何ら変わらないんですね。
なので、ひどいときは給与課税される可能性があります。
よくあるダメなパターン
よくあるダメなパターンをひとつ紹介します。
個人の支払いに充てるために法人口座からお金を引き出しっぱなしでいると、「普通預金」勘定は減りますが、「現金」勘定が増えます。
仕訳で表した方が早いので、以下記載。
例えば私用に使うために50万おろした場合
こんな感じです。
すると帳簿上、普通預金は減りますが、手元の現金は増えるわけです。当たり前ですが。
そしてここからが問題となるわけです。
支払いはプライベート支出となるため、そこから先は会社の帳簿には何も処理されません。
手元に現金は既に無いにも関わらず、帳簿上は「現金」勘定がドンドン溜まっていきます。
こうしたことを少額でもしていると、気付いたときには積もりに積もって現金勘定があり得ない莫大な数字になっている状態となります。
こうなった時には、税務調査では現金が無いのに帳簿上は溜まってますから、まあ目立ちます。
「ああ、私用で使ったね」として給与課税するわけです。
こうなったら結構えぐいと思います。役員としては、所得税とか住民税とか死ぬほど取られる可能性が出てきます。
一方、会社としては、役員報酬は毎月同額としなければならないので(=定期同額給与)、給与認定されても、どのみち経費として認められません。
こうなるのを回避する場合に、役員貸付金が登場するわけです。
こんなふうに、あるはずのない現金勘定を、「役員貸付金」に振り替えることによって、「私用で使ったのではなく、役員に貸し付けている状態」という意味にするわけです。
それと同時に、貸付利息を計上しながら、役員から実際に返済を受けることになります。
まあ、溜まった現金勘定をどうにかするとしたら、こういう策を講じるしかないと思います。
こういうパターンは、出来れば見たくないですね。。
テンション下がります。
まとめ
「役員借入金」と「役員貸付金」について、整理してみました。
どちらも個人(役員)を絡めたもので、複雑化してくると結構面倒です。
とくに役員貸付金は、基本的にあってはならないものです。
会社と個人で、お金の区分がルーズだと発生しやすく、いざ発生したら、解消するのが大変だからです。
是非、そうならないように正常な経営をしていきましょう。
編集後記
緊急事態宣言下において、サウナー(サウナ愛好家)としては感染リスクに配慮しながら活動しなければならないのですが、この生活にもだいぶ慣れてきました。
サウナイキタイ。