税理士として独立しようと思ったときに、不安だったりして思いとどまらせる要因が少なからずあります。
そのうちのひとつが「業務経験」です。
・経験年数(どれくらいの期間下積みするのが良いか?)
・業務実績(どれくらいの経験や実績が必要か?)
このあたりを、独立前にどれくらいストックしておけば良いのか?
それを踏まえて、独立すべきベストなタイミングはいつか?
ということについて、自分なりのルーツや経験から考えてみます。
※自分のルーツが公認会計士→税理士独立なので、必然的にこのパターンの人向けです。専門用語とかも出る可能性もあるし、万人が必要とするネタでも全然ないです(まあそんなこといったらこのブログ自体が全部アレですが)
※ぼくのバイク。
会計事務所などでどれくらい修行すべきか(経験年数)
独立するまでに、どれくらいの期間(下積み時代)が必要なのか?
これは独立志向の方などが良く悩むというか、議題に上がる論点です。
税理士登録するためには、税理士試験合格者の場合、2年間の実務経験が必要です。
※私は公認会計士のルートで税理士登録してますが、税理士の前に公認会計士登録のほうで同じく2年の実務経験が要るので、そちらで満たしています。実務経験要件は、どちらも同じだと思います。
税理士として独立する前は、よくあるパターンとして税理士事務所(=会計事務所)に勤務される方が多い印象です(受験生や勤務税理士)。
また、少数派にはなるでしょうけど、一般の事業会社の経理などで会計実務など従事して要件を満たす方もいらっしゃるかと思います。
税理士登録する(独立する)までのルートは、資格の取り方や実務経験の積み方を考えると、かなり多種多様です。
なので各自のバックグラウンドとかでも変わって来ます。
この、どれくらい期間を積んでおけば良いかという悩みですが、私なりの結論は
「独立したいなら、どこかに雇われて働くのは2年の実務要件を満たした時まで」
で良いと思います。
まあ、今だから言えますが。。
理由は単純で「税理士登録するのに法律上実務経験が2年必要だから」です。
それ以上は特別な理由がない限りは必要なし。
独立することを前提にするのなら、そのスタンスでいいと思います。
早ければ早いほど、独立するなら有利です。その後のキャリアが長くなるし、独立後の色濃い経験がストックされていくからです。
あとは状況と好み次第です。
その職場に面白い案件が多かったり、居心地が良かったり(会計事務所ではあまり聞きませんが。。)、そこで自分なりにやるべきことがあるなら、納得いくところまでやれば良いのかと思います。
短いと思うかも知れませんが、じゃあいつまでやるのか?といえば答えは無いし、仮に10年やったから十分と思えるか、といったら別にそうでもないです。
公認会計士でも税理士でも同じだと思います。
実務経験で重要なのは、本質的には「期間」そのものではなく、そこで過ごす「質」や「密度」だと思うからです。
取り組み方ひとつで2年あれば相当な経験やスキルはつきますし、逆に浅い業務や作業的なものばかりを10年やってても独立後で全く役に立たないかも知れないと思うので、期間というよりは、過ごし方次第な気はします。
単純に、独立するために長期間下積み期間が必要か、ということについては、個人的にはNOです。
業務実績をどれくらい作るか
独立までにどれくらいの実績や経験を積んでおけば良いのか?
というのも、良く悩む話です。
これに対する私の結論は、
「独立志向があって既に登録要件を満たしているなら、もう実務経験は何でもいいから即独立」
です。
独立する要件が足りてるなら、今すればいいじゃん。ということです。
これは、一括りに実務経験といっても、独立前に経験できるものというのは勤務先が抱える仕事内容や案件によってケースバイケースだし、独立後に何がしたいのかにもよるので、そもそも統一的(一般論的に)に話せることではないというのが率直なところです。
ひとついえるのは、税務案件の中身とかバリエーションをどれくらい経験しておくか、ということに過度にこだわると、独立のタイミングが遠のいていくのは間違いないと思います。
たとえば
・法人税申告を何件
・所得税申告を何件
・年末調整を何件
・相続税申告を何件
・事業承継を何件
・株価評価を何件
・国際税務を何件
・組織再編税制を何件
・連結納税を何件
・担当クライアントを何件
・業種を何種類
・記帳業務を何件
・規模の大小で何件
(挙げてる途中ですげえ気持ち悪くなりました。。)
こんな感じで、税法の種類や顧客規模、業種など、切り口ごとに考えてみると税理士が触れる可能性がある局面は星の数ほどあります。
これらをどこかの会計事務所や一般会社で何をどれくらい経験しておけるか、というのはそもそも限界があります。
キリがないですし。
医者だって弁護士だって、独立している方は専門分野が必ずあるはずです。税理士も、同じです。全部できません。
(むしろ、分野を絞って意識的に勝負しないと独立後は「広く浅く」では難しいともいえます。時間という資源が限られているので)
また、期間にも言える話でしたが、こちらでは「独立前にどれくらいの量の経験を積めば十分」か、という問いに答えはありません。
というより、十分になることは独立後もずっと訪れないと思います。
たかだか数年〜数十年この業界に触れたぐらいでは、網羅するのはどだい無理だからです。
あれもこれもは無理なので、本当に独立したくて資格があるなら、今してしまいましょう。
独立後に知らない業務や対処したことがない業務に出会うことは、普通のことだと思います。
その場合は、死ぬほど不安になりますが、その都度死ぬほど調べたり事例を研究することで、だいたい解決できます。
(頼れるのは自分しかいないので、窮地に陥ると否応なしに100%中の100%のパワーが必ず出ます)
出来るだけ独立前に対応できるようになっておきたいと思う気持ちは概ね正しいですが、それだと事例の数だけ時間が必要だし、終わりがありません。
経験した案件の数より世間一般の事例数の方が常に多いのだから、当たり前です。永遠に逆転することはありません。
1対1の解決策を得るための事例経験が欲しいと思っていると、永久に独立するタイミングを決められないと思います。
そうではなくて、少なくとも2年の実務期間のうちに、申告書の基本的な仕組みなど最低限のものをはじめ、ひとつひとつの案件を熟慮して深く仕事に取り組んでいけば、横断的な現場解決能力は勝手についていくはずです。
この横展開で対応できる段階になったら、あとは独立後も、案件は違ってても仕事の進め方やアウトラインは同じなんじゃないかなと思います。
これに、既存の業務経験とかやりたい分野に軸を添えて展開していくのであれば、何とかなると思います。
ぶっちゃけ、モノによっては知らないものは知らないままでも良いのかと思います。何でも出来るようになろうと思わず、はなから捨てることも必要です。
独立前にどれくらいの量や種類の経験が必要か、ということについては、むしろ「今ある経験で勝負するしかない」と思います。
さらにぶっちゃけ、勤務時代の案件を難易度の高低、バリエーション含めいくらやろうとも、大きな視点でみれば、独立後の実務スキルは異質なものだと思います(その業務はただのプレイヤーとしてのスキルなだけであって、経営者としてのスキルは勤務時代では到底積めないという意味です)。
また、税務という業務だけをピンポイントでお客様は求めているかというと、そういうわけでもないし、トータルで経営を見てほしいなどのニーズもあるわけです。
変に枝葉にいきすぎないことです。お客様目線で、オーバースペックにもなりかねません。
磯谷の場合(参考程度に、つまみ程度に)
私のルーツ的には、まず公認会計士として約10年監査法人で監査業務を中心にキャリアを積んできました。
(公認会計士で2010年~2019年、トータル約10年監査業務を経験)
税理士としては、公認会計士登録するときの2014年に同時に登録しており、しばらく公認会計士をメインにしながら独立税理士として税務を始めました。こちらは、ひとり税理士として5年経過。
次第に、雇われていた公認会計士と独立していた税理士の工数や収入が逆転して、2019年現在は独立税理士の一本のみです。
(監査法人の非常勤を辞めるとき、最終的には公認会計士+税理士の総収入に対する公認会計士のパート収入は12%でした)
なので私の場合、キャリアの最初は、税理士のように「申告書を代理で作る」とかではなく、公認会計士の監査業務として「会社が作った決算書をチェックする」という仕事をずっとしていました。
税理士として独立して5年ですが、独立前の直接の税務経験といったら、所得税申告を自分のと親族の含め数件作っただけで、少なくとも法人税申告書を作成して自分で申告したことは一度もありません。
また、税理士事務所に勤務したことが全くないので、一般的な年間の税務スケジュール(事務所として季節的にどのような動きをするのか)ということも恥ずかしながら全然無知でした。
12月は年末調整だよねー、ぐらい。
※おかげで、いわゆる税理士事務所特有の変な習慣や妙な作業ルールなどの呪いにかかっていなかったのは逆にフレッシュでした。
公認会計士のルーツであれば、特に「税務申告書を自分でイチから作って申告する」という経験は、意外に積めないケースが多いんじゃないかと思います。
そのため、独立を考える場合、税務がメインになりますから、一度監査法人を退職して、税理士事務所や税理士法人で税務経験を積んだりするパターンがあります。
ただ、実際に独立して色々やってみて思うのですが、別に税理士事務所でワンクッション入れなくても、いざ独立して税務申告書を作る局面になれば、おそらくだいたい出来ると思います(一般的な中小の事業会社であれば)。
死ぬほど調べたり、勉強は必須ですが、いわゆる「なんもわかんねえ。もうお手上げ」状態にはなりにくいかと。
というのは、監査実務でクライアントの税金勘定(法人税、住民税、事業税、消費税、税効果など)はチェックする側の立場で申告書や基礎資料を山ほど見ますし、申告書の仕組みの理解もそれを題材に事例研究できます。税額控除とか留保金課税とかも実物で研究できました。
(私なんかはクライアントがとても親切だったので、チェックする立場でありながら経理部長や担当者の方に細かい部分でわかりにくい部分はおねだりして聞いてました)
また、上場会社(親会社)の申告書のように別表調整が死ぬほどある事例もあれば、均等割しか加算しないような小さい子会社などの事例も見れるので、大小トータルでおおよその全貌は知ることができます。
なので、独立したいからといって、税理士事務所に勤務して法人税申告書をイチから学ばなければならない、ということは必ずしもなく、実物を題材に生きた教材で勉強するツールや機会はいくらでもありました。
※所得税申告書や資産税は、直接の監査ではほぼ無理です。でも、それらもやろうと思えば自分なりに勉強して習得することは出来るはずですし、取捨選択の余地はあります。また、税務スケジュールの年末調整や法定調書などは、一回真剣にやれば出来ます。あとはパターンです。
したがって、個人的な結論としては、税務の実務経験は直接的な申告経験とかが無くても、それ自体が特に大きな問題にはならないと思います。
というより、独立すると、今まで散々つづった税務業務は全体の動きの中の一部であって、営業スキルや運営など、やるべきことは色んな角度でたくさんあります。
枝葉の論点ばかり詳しくても、それらトータルでバランスをとれないと独立してからはうまく機能しないと思います。
さらに、業務といっても創業支援や資金調達(創業融資とか)、コンサルとかクライアントに役に立てるものは税務以外でいくらでもありますし、公認会計士であれば、むしろ他と同じような感じで税務ど真ん中でいくよりは、仕組みがある程度でき上っている上場会社のノウハウなどを散々見てきているわけですから、それをクライアントに還元するような形で関与できると、自分のフィールドで動けるのではと思います。
まとめ
私のルーツが税務ど真ん中ではないので、必ずしも全ての税理士として独立を目指す方の参考にはならないかも知れませんが、独立までの準備に関する考え方という点でいえば、共通する部分もあるかも知れないとも思います。
勤務時代に「どれくらいの期間」とか「どれくらいの経験値」とか考えたところで、独立後はただ税務だけをやっていれば良いわけではないし、それ自体でお客様に満足していただけるわけでもありません。
独立したいなら、早めに独立して、イチ事業者ならではのスキルをトータルで身に着けていく方向で考えをシフトするのが良いのではと思います。
編集後記
1歳の息子が木製のトーマスのおもちゃにハマる。
ディーゼルがお気に入り。「でぃー!でぃー!」と叫びながら僕の顔面の上で走らせています。
一日一新
10日間の沖縄ステイ無事終了